基本的な考え方

TOPPANグループは、2031年度の目指す姿「True Value Transformation 事業・人財・資本を磨き 世界に真の価値を提供する」の実現に向け、原点である「印刷術」を知識・ノウハウと加工技術の融合により発展させてきた独自の「印刷テクノロジー」をベースに研究開発を推進しています。また、印刷テクノロジーを最先端のAIを駆使しながら、複合的に組み合わせることで、新たなソリューションを提供しています。
今後もさらなる技術の深耕と拡充を進め、グループシナジーの最大化を図るとともに、お客さまや大学、スタートアップとの協創で新たな提供価値の創出に取り組んでいます。また、生活・産業事業を皮切りに、海外拠点との連携を強化したR&Dグローバルネットワーク体制の構築を進め、国内外の技術・知見を掛け合わせることで、世界規模でのイノベーション創出と事業ポートフォリオの変革を推進していきます。

新事業創出を支える研究開発体制

TOPPANグループでは、市場開拓視点の徹底による新事業の早期創出・スケール化を実現するため、組織の壁を越えて各部門が相互に連携しながら研究開発に取り組んでいます。
体制の軸として、「事業開発部門」「技術開発部門」「事業部門」が三位一体となり、社会・市場の変曲点の捕捉や業界・顧客課題の深掘りを通じて、競争優位を支える研究開発を推進しています。ここに「知的財産部門」が戦略的に連携し、研究開発テーマの早期権利化から参入障壁の構築までを見据えた知財活動を一体で進めることで、競争優位性の確保を図っています。
技術開発部門においては、技術戦略を担う「技術戦略センター」、グループの研究機関である「総合研究所」、さらにグループ会社の各技術開発部門が緊密に連携しています。技術戦略センターは、全社横断の技術戦略の司令塔として、中長期的な技術ロードマップの策定、産官学連携・社内連携の推進、行政機関との連携、生産技術開発の強化を一体的に担っています。また、総合研究所では、次世代の新技術確立を目指した基盤研究、高いオリジナリティと競争優位性を持つ商品開発、高度な専門技術による事業部門への技術支援を推進しています。AI・量子分野といった先端技術の研究開発に取り組み、開発基盤のさらなる強化を図っています。

新事業創出に向けた連携体制
市場の変曲点を捕捉する事業開発部門、技術視点をもつ技術開発部門、業界や顧客課題を深掘する事業部門の3つが連携し新事業を創出する体制。知的財産本部とも連携し、早期権利化による競争優位性確保を目指す。
研究開発体制
技術戦略センター、総合研究所、グループ会社の技術・研究開発部門からなる技術開発本部内の連携と、企業・スタートアップ、大学、各種研究機関などの外部組織との双方向の連携体制。

課題と対応

急速に変化する社会課題や市場環境に対応し、新たな価値を継続的に創出していくためには、競争優位を創り出す技術獲得が不可欠です。特に、TOPPANグループの強みの源泉となる基盤技術を継続的に磨き上げるとともに、将来の事業成長につながる先端技術を外部の知見も活用しながら取り込んでいくことが重要な課題であると認識しています。
この課題に対し、TOPPANグループでは複数の大学と戦略的な共同研究を推進しています。一例として、国内のAI研究を牽引する東京大学の松尾豊教授をはじめとする研究者らと、社会連携講座を通じてサプライチェーンの予測・最適化のAI技術の共同研究を進めてきました。さらに、TOPPANホールディングスからの寄付をもとに東京大学はAIの基礎研究から社会実装に向けた応用技術の研究開発までを推進する「AIイノベーション研究センター」を2026年7月1日に開設しました。同センターでは、東京大学の最先端のAI関連技術・研究開発力のさらなる強化を推進します。TOPPANグループでは、同センターから創出される知見や技術を活用し、これまで幅広い事業領域で培ってきた実務知やデータとを掛け合わせることで、社会実装を加速させていきます。

材料開発を加速させる量子化学計算

量子コンピュータは、材料開発、製造・物流、人工知能など様々な用途での活用が期待される革新的な技術として注目を集めています。その反面、量子コンピュータによってインターネットなどに使われている暗号が解読されるといわれており、その対策が急務となっています。
TOPPANグループでは、競争優位性を確保すべく2020年より研究開発に着手し、BPO事業を効率化する実証実験、東京大学との「量子人工知能」の共同研究、量子コンピュータでも解読が困難とされている「耐量子計算機暗号(PQC)」を搭載したICカード「PQC CARD®」の開発など、幅広いテーマに取り組んでいます。こうしたテーマとならび、ものづくり分野の材料開発を加速する手段として注目されているのが、原子や分子の振る舞いを量子力学に基づき正確にシミュレーションする「量子化学計算」です。
従来の材料開発は実験の繰り返しに多大な時間を要し、複雑な分子系では現行のコンピュータによる計算が困難という課題がありました。しかし、量子コンピュータを活用すれば高速・高精度に計算できる可能性があります。
TOPPANグループでは、かねてより基盤である材料設計技術とAIを組み合わせたマテリアルズインフォマティクス(MI)に取り組み、全社的な材料開発の強化・効率化を推進しています。量子コンピュータで得られた高精度なデータをMIに組み込むことで、材料探索の領域を格段に広げられると期待されています。
TOPPANグループはこの可能性に着目し、2023年3月より大阪大学量子情報・量子生命研究センター(QIQB)との共同研究を開始しました。自社材料や製造プロセスの課題に対し、物性値予測や化学反応シミュレーションを行う演算アルゴリズムの開発と実証を進めています。その成果として、国産量子コンピュータ初号機「叡」を化学分野に応用した初の研究実績となる、量子古典ハイブリッドアルゴリズム「QSCI-AFQMC」の論文を公表しました。これは分子の重要な電子配置特定に量子コンピュータを活用し、古典計算機でスケーラブルなエネルギー評価を行う画期的な手法です。
さらに、電子が1個だけで軌道に存在する状態を除き、電子が2個のペアで軌道を満たす状態(二重占有配置)に限定することで、量子ビット数と計算負荷を低減する最新手法「DOCI-QSCI-AFQMC」も開発しました。これらを有機化合物の化学反応計算に適用した結果、計算負荷を抑えつつ、従来の古典計算では信頼性が不十分な複雑な系に対しても妥当なエネルギーを算出できることを実証しました。本研究成果は、半導体・ディスプレイ関連部材やパッケージ、建装材製品など、幅広い領域における材料開発・評価プロセスの変革とスピードアップに向けて活用していくものです。
今後は、材料の研究開発DXを推進するとともに、蓄積した知見や計算手法を活かし産業と技術のさらなる発展に貢献していきます。

量子技術全体像
下層の基礎学理・基礎技術が基盤となり、ハードウェア、ソフトウェアへと積み上がり、最上層において化学計算や情報処理などの用途を通じ、製造や物流、金融といった各産業分野へ応用される構造。

DOCI-QSCI-AFQMCによる
化学反応計算のシミュレーション例

各計算手法によるエネルギー算出結果の比較

各計算手法による反応経路の相対エネルギー算出結果を比較する折れ線グラフ。Reactant(反応物)、TS(遷移状態)、Product(生成物)の各段階におけるエネルギー推移を手法ごとに色分けして示し、計算精度の違いや傾向を可視化している。

新事業創出テーマ

競争優位性のある「ビジネスモデル/テクノロジー」を核に、社会的・産業的課題に対応した新事業の創出を図っています。
3D細胞培養技術「invivoid®」は、大阪大学大学院工学研究科の松﨑典弥教授とTOPPANホールディングスが2017年に共同開発した、独自のバイオマテリアルを活用する三次元細胞培養技術です。複数の細胞を立体的に共培養することで生体に近い人工組織を簡便に作製できることから、がんの個別化医療や創薬研究、再生医療など幅広い分野での応用が期待されています。
事業化に向けて現在最も注力しているのが、患者一人ひとりに最適な治療法や薬剤を選択する「がん個別化医療」の領域です。国内では、公益財団法人がん研究会、大阪大学との共同臨床研究において、患者由来のがん細胞から作製した「がん患者アバター」を用いた抗がん剤の効果予測が、実際の臨床結果と高い一致率を示すなどの成果を上げてきました※1。さらに、2026年度の後半期には、がん研究会において、3D細胞培養技術を用いた抗がん剤感受性検査としては国内初となる先進医療※2適応開始を予定しています。この実績をベースに、世界最大の医療マーケットである米国への展開を推し進め、個別化医療の実現と創薬支援事業の拡大を加速させています。

がん個別化医療の提供イメージ
従来の医療とがん個別化医療の比較。医師の経験/知識に基づいた画一的な治療で不適合が生じる従来に対し、がん個別化医療では患者毎の検査を実施。患者個人の体質やがんの特長に合わせた治療で、患者個々に適合させる。
※1
この結果は国際学術誌『Acta Biomaterialia』に掲載されました。Yuki Takahashiほか、Acta Biomaterialia, Vol.183, 111-129, 2024.
※2
先進医療は、保険診療の対象に至らない先進的な医療技術等のうち、厚生労働大臣の承認を受けたもの

米国では、2025年7月に世界最高峰のがん研究施設であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターと戦略的提携を締結し、オルガノイドを用いた治療有効性評価手法の米国認証取得に向けた共同研究を進めています。「invivoid®」は生検組織から迅速にモデルを確立できるため、事前に最適な治療法を特定し、効果が期待できない不必要な治療を避ける大きな可能性を秘めており、TOPPANホールディングスはこの取り組みに5年間で約1,000万US$の資金を提供しています。
さらに、現地での連携を直接担う拠点として、2026年3月に新会社「TOPPAN Global Medical Healthcare Inc.」を設立しました。世界最高水準の医療機関が集結するテキサス・メディカル・センター(TMC)に拠点を構えることで、MDアンダーソンとの臨床検証を加速させるとともに、現地の製薬企業に対して「invivoid®」を用いた効率的な創薬スクリーニング環境を提供するなど、創薬支援事業も本格的に展開していきます。
医療イノベーションの中心地から最先端の知見やグローバルネットワークを取り込み、最適な医療を届ける社会の実現に貢献するとともに、ヘルスケア領域をTOPPANグループの成長を牽引する次世代の事業の柱へと育てていきます。

テキサス・メディカル・センター(TMC)

研究開発人財の育成

2020年度より、人的資本の戦略的な活用によって技術力向上を実現することを目指し、TOPPANグループにおける技術系スキルを保有する人財について調査を行い、スキルの見える化を実施しています。
このスキルマップをもとにデジタルスキルを保有する人財の育成や適切な配置を進めています。研究開発においてはデータサイエンス領域の人財育成が重要であり、特に効率的な材料開発に有効と考えられるマテリアルズインフォマティクス(MI)や統計解析を活用できる人財の育成に力を入れ、グループ横断で実施しています。
具体的には、MIや統計に関する「寺子屋式データサイエンス人財育成」を展開し、事業部門の人財を総合研究所に受け入れて短期集中教育を行うことで、各事業部門におけるデータサイエンス活用の中核人財を育成しています。

スキルマップ活用全体像
中心のスキルデータを基盤に採用、人財育成、最適配置を実施。さらに社内DB連携、技術継承、ローテーション、社内人財確認、リクルーティングへ展開し、ナレッジ共有や社内人財の活人化を図る構成。

研究開発投資実績

事業ポートフォリオ変革実現に向け、下表の通り、社会課題や技術トレンドに対応した重点投資領域を設定し、それらを支える環境整備等の基盤構築予算と併せて、研究開発資源の投入を強化しています。
投資の最適化に向けて、成長事業拡大、グローバル化強化、新事業創出の加速など投資効果の高い有望なテーマに集中的に投資することで、資本効率を最大限に高めています。

※
過去実績のため、2025年度までの中期経営計画の重点投資領域にもとづいた分類を行っています

研究開発費実績

2022~2025年度の研究開発費実績と2026年度の投資計画。DX、SX、新事業、基盤技術、既存分野別の内訳推移を記載。総額は270億円前後で推移しており、特に新事業への投資額が拡大傾向にある。
ビジネスモデル・領域 主な研究開発内容
DX AI関連/自治体行政向けソリューション/デジタルマーケティング/デジタルプラットフォーム事業/BPO関連/IoT関連/スマートシティ・まちづくり関連 他
SX モノマテリアル関連/紙化対応/リサイクル・アップサイクル技術/バイオマス関連/生分解材料 他
新事業 メタバース関連/ヘルスケア事業/3D細胞培養技術/燃料電池部材/量子ドット/エネルギー関連/ゲノム編集/ロボティクス/アグリ関連 他
基盤技術 材料・分析技術/サービス品質向上基盤強化/コンバーティング技術/微細加工技術/エッチング技術/AI関連/セキュリティ技術 他

事業等のリスク

TOPPANグループに関連する主要なリスク項目を示した「事業等のリスク」において、「研究開発投資の損失等、製品の研究開発上のリスク」を特定しており、その対応策として、研究開発活動の管理を担う技術戦略センターが中心となって、グループ保有の情報やアセットの活用強化・促進、追加投資対象の研究開発テーマに対する定期的な進捗確認などの取り組みを推進しています。