TOPPAN’s Impact
デジタル化が加速する現代社会において、半導体は暮らしや産業を支える基盤として不可欠なものとなっています。TOPPANは祖業である印刷事業で培ってきた微細加工技術をエレクトロニクス分野に展開し、LSI(Large
Scale Integration:大規模集積回路)の高性能化・小型化などのニーズに応えるFC-BGA基板や次世代半導体パッケージ用基板を開発・生産しています。
DX・SXを目指す姿として掲げるTOPPANグループにおいて、半導体事業は企業価値の基盤を担う事業であると考えています。今後、更に高性能な半導体が求められる一方で、データ通信量の増大や熱効率問題など脱炭素社会の実現、省エネルギー化のほか、サプライチェーンに係る安定供給の課題も顕在化しています。半導体事業の成長のためには、これらの課題解決は避けられないものです。
TOPPANは、これまでも環境問題をはじめとする社会課題解決に対し様々な提案を行ってきました。今回は、日本AMD株式会社との連携において両者が半導体ビジネスを通じて成し得てきたこと、そして実現しようとしている未来について、対談を通じて語り合いました。
斉木 一 さま(左)
日本AMD株式会社
Director
Substrate &
Passive Components TD
Advanced
Technology
奥村 健司(右)
TOPPAN株式会社 エレクトロニクス事業本部 半導体事業部第一営業本部 本部長
エレクトロニクス事業の成り立ちと日本の半導体事業を牽引してきた2社の連携
- 奥村
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TOPPANのエレクトロニクス事業の起源は、60年以上前まで遡ります。印刷の製版に欠かせないエッチング(腐食)やめっきなどの金属加工のノウハウを発展させ、1959年に精密部品の製造を開始したことが始まりです。その後、世界的なエレクトロニクス産業の発展に伴って、半導体の回路関連のフォトマスクやプリント配線基板に領域を拡大してきました。
私の入社当時(1990年)は精密電子事業本部という名称でしたが、翌年からエレクトロニクス事業本部に改称しました。1990年代はカラー液晶などでも印刷技術の活用が進んでいましたが、それ以前から回路基板関連の事業は存在していたというわけです。 - 斉木さま
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日本AMD株式会社はアメリカのAMD社の日本法人であり、セールス部門とエンジニア系のテクニカル部門を有しています。日本法人の設立から50年が経過していますが、昔から「技術の日本」と呼ばれていたように、日本市場の規模は大きいものでした。技術力の高い開発パートナー企業も多数存在しており、AMDにとって日本は基幹ポジションにあるといえます。
私たちの強みは、世界トップシェアを実現する技術力と、日本という地の利にあると考えています。TOPPANのようなサブストレート基板を製造するサプライヤーの多くは日本・台湾などアジアに集中していますし、主材料を扱う主要メーカーの多くは日本企業です。そうしたサプライヤーと日本AMDが緊密にコミュニケーションを図って関係を構築し、細かい仕様まで対話し、迅速な判断を行うことができるため、ビジネス上のタイムロスを削減できるというメリットがあります。 - 奥村
- 日本AMD様との取引に向けたプロジェクトが始まったのは、2007年のことです。私たちは当時、半導体の前工程であるフォトマスクの営業部門を米国に持っており、彼らと相談の結果、FC-BGA基板事業を進める上でお付き合いすべきは世界でもトップクラスであるAMD様だと考え、サプライヤーとしての認定を得るために社内プロジェクトを立ち上げて対応を進めました。
- 斉木さま
- これから半導体分野では、サプライチェーンをはじめ更なる変化が起こっていくと予想されます。そのような環境下、異なる知見を持っているTOPPANと組んでいくのは、わたしたちにとって非常に大きなメリットがあると考えています。例えば、TOPPANは、フォトニクスの延長で大型サイズのパネルのハンドリングや基板製造能力にも強みを持っており、高い品質を維持し続けている企業だと感じています。
半導体需要の拡大に伴う性能向上と環境負荷低減の両立
- 斉木さま
- パソコンやスマートフォンをはじめ、半導体を使う機器は日々の暮らしになくてはならないものになっています。一方で、機器の環境負荷低減についても、業界全体で課題を認識しています。皆さんもよくご存じのように、半導体を使用する機器は、使い続けると発熱してスピードが遅くなることがあります。例えるなら、電気ポットでずっとお湯を沸かし続けているようなものです。とはいえ熱効率を配慮した結果、機能が低下してしまっては誰も使ってくれません。このように高性能と環境負荷低減の両立がこれから大きなテーマだと考えています。
- 奥村
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AIの普及・発展がめざましいですが、それらを支えるデータセンターでは無数の高性能なGPUが稼働しています。まさに、巨大な電気ポットを沸騰させ続けている状態といえますね。
TOPPANは、FC-BGA基板を通じてこれまで大型化や消費電力削減などの課題に向き合ってきました。データセンターでの消費電力と発熱を低減していくために、日本AMD様とTOPPANが一体となって材料や基板の構造などの設計革新を進めていければと考えています。
そのためにも、私たちは先端技術情報へ常にアクセスし最新の技術や動向を蓄積しています。昨年参画した次世代半導体パッケージコンソーシアム「US-JOINT」※もその一環です。また、ガラス加工や半導体の前工程など、TOPPANの多様な事業で積み重ねてきた実績も活かして、次世代半導体向けの新しい展開も考えていきたいと思っています。※大手半導体後工程材料メーカーである株式会社レゾナックが主導し2024年7月に設立された次世代半導体パッケージ分野の日米混合のコンソーシアム。TOPPAN株式会社は2024年11月より、パッケージ基板メーカーとして参画。
https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2024/12/newsrelease241210_1.html
- 斉木さま
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今後のAIの発展は基板部分が重要な役割を担ってくると思います。日本AMDでも、一番の課題である消費電力の削減を実現するために、デザイン能力・パッケージング能力を駆使することで熱くならずかつスムーズに動く状態を持続させようと取り組みを続けているところです。
少しでも製品寿命を延ばし、効率のよい製品の開発に、日本AMDが持つ3Dパッケージングなどの先端技術が役立つものと見ています。
サプライチェーンの更なる強化と次世代半導体に向けた挑戦
- 奥村
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近年、半導体のサプライチェーンマネジメントへの注目が高まっています。世界的なDXの流れを受けて数年前に世界的な基板不足が発生したほか、ウクライナ危機以降材料費の高騰が続いています。
お客さまのニーズを捉える技術開発を行いながらサプライチェーンを管理していくことは困難が伴いますが、大型化・高機能化が進む中で歩留まりの向上と安定供給は最重要課題だと認識しています。 - 斉木さま
- 日本AMDでは、樹脂基板の調達においてはBCPを考慮して、日本ではTOPPANを含め数社、台湾でも数社と、サプライヤーをアジアで分散させています。アジアのサプライチェーンは変革期にあり、各国政府の動向や地政学的な影響も受ける問題なので、きちんと見極めをしていく必要があります。
- 奥村
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TOPPANでは現在、新潟工場のみで供給を行っているのですが、BCP強化の観点からシンガポールに新工場を建設する予定です。これによりFC-BGA基板事業で2027年度までに2022年度比で2.5倍以上の生産能力の拡大を目指しています。
さらに、先ほども話題になりました発熱問題の解決と高速かつ多機能な半導体の製品化に向けて、TOPPANの強みであるガラス加工を活かした次世代半導体パッケージの開発に注力しています。ガラスをベースとした基板は、従来の有機の基板に比べると低熱膨張・高密度配線に優れ、チップレット構造や光電融合技術により性能向上に貢献できます。これにより、高性能と小型化・省エネルギー化を両立したパッケージが実現できるものと期待しています。 - 斉木さま
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長年ガラスを取り扱ってきたTOPPANは、その物性の理解や加工について他社にはない強みを持っており、サプライチェーンの中でも新しい要になるという可能性を感じています。日本AMDはファブレス企業なので、目標に向かってお互いに努力し、新しい技術を生み出していけるパートナーをいかに発見し、密にコミュニケーションをとれるかを重視しています。TOPPANは、私たちの開発方針に対して熱意をもって継続的に提案をしていただいているからこそ、15年にわたるWin-Winの関係が続いているのだと思います。
TOPPANに対しては難しい要求もしていると思いますが、それに対して常に新しい提案やサポートをしていただいています。それができるサプライヤーは貴重あり、今後も重要パートナーとして関係を維持していきたいと思っています。欲を言えば、もう少しキャパシティがあるといいかなと(笑) - 奥村
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ガラスの基板を開発するうえで、最先端の技術を持っている日本AMD様から学ぶことは非常に多いです。実際には、TOPPANは技術リソースやキャパシティが限られているため、日本AMD様の求める要件にすべてお応えできていないという課題感も持っています。TOPPANの強みを活かせる部分で局所でも同じ目標を目指し、共に成長していきたいと心から願っています。
また、半導体のサプライチェーンの安定化を図ることで、少子高齢化に伴う労働力不足解消など日本にとっての大きな社会課題解消にも貢献できると考えています。様々な社会課題の解決へのキーとなる半導体事業の成長に向けて、これからも連携を深め、様々なことを吸収し、製品・サービスに活かしていければと考えています。
※掲載内容はすべて2025年10月時点(取材時)の情報です。
生成AIの高度化やネットワークの高速化に伴い、半導体は更に私たちの生活に欠かせないものになっています。一方で、半導体の急速な需要拡大によって、データ通信量の増大、廃棄熱、サプライチェーンなど様々な社会課題が浮き彫りになってきているのも事実です。
TOPPANグループでは、印刷技術から派生した当社の知見やノウハウだけでなく、お客さまの強みと掛けあわせることで、社会ニーズに対応し事業成長を成し遂げるだけでなく、社会課題の解決の両立を図ってまいります。
企画コーディネーターからのコメント
TOPPANホールディングス
株式会社
広報本部ESG
コミュニケーション部
船橋 南帆美
広報本部ESGコミュニケーション部の船橋です。
第5回目となる今回はデジタル社会に生きる私たちの生活に欠かせない「半導体事業」を取り上げました。日本AMD社の斉木様をお迎えし、非常に活気あふれる議論が交わされ、業界が抱える課題やそれを解決するための新技術の開発など、最前線のお話しをお伺いすることが出来ました。取材を通じて、事業によって社会課題を解決していくことの難しさを改めて実感するとともに、果敢にチャレンジする半導体事業の更なる可能性も感じました。
これからもTOPPANグループは企業価値向上に向け、Proactivity(周囲に先駆けて考え、スピーディーに行動する)の精神を胸に挑戦していきます。次回もお楽しみに。