このたび、熊本城の飯田丸五階櫓の崩落した石材を、熊本市と連携協定(※1)を結んでいる熊本大学が開発したコンピュータビジョン技術と、凸版印刷がVR作品『熊本城』(2011年製作)(※2)を制作する際に取得した、崩落前の熊本城の櫓や石垣など約4万点のデジタルアーカイブデータを融合させ開発した「石垣照合システム」を使用し、石材が崩落前にあった位置の照合をおこないました。その結果、目視による照合と比較して約9割の正解数を記録しました。また、目視では解らなかった石材の位置も発見することができました。本システムを活用することにより、石垣の位置特定作業が効率的に行えます。
この照合結果は熊本市の熊本城調査研究センターに提供され、本システムは、飯田丸五階櫓の工事に向けた石垣復旧設計に活用されます。

© Kumamoto University, Toppan Printing Co., Ltd.
「石垣照合システム」と本プロジェクトについて
熊本地震による崩落や損傷の被害により、熊本城では約3割の石垣が修復対象となっており、積み直さなければならない石材は城全体で約10万個におよびます。熊本大学と凸版印刷は2017年に連携協定を締結し、そのうち約3万個におよぶ崩落した石材について、位置特定を自動に行う石垣照合システムの開発を進めてきました。
なお、本テーマは2017年10月に国立研究開発法人科学技術振興機構の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)シーズ育成タイプに採択され、同機構の支援を受けながら開発を進めています。
コンピュータビジョン技術を用いた石垣照合システムについて
石垣照合システムは、熊本大学が開発したICP(Iterative Closest Points)アルゴリズムによる照合技術と凸版印刷がもつ精確なデジタルアーカイブデータを用い、石材の輪郭特徴等を比較することで、崩落後の石材が崩落前のどの位置の石材かを推定するシステムです。照合精度を高める為、凸版印刷は保有する崩落前のデジタルアーカイブデータから各石材の形状の特徴を再現した画像データベースを作成。熊本大学は、崩落後の石材写真と、凸版印刷が保有する崩落前のデジタルアーカイブデータから、ICPアルゴリズムで自動的に輪郭情報などを抽出し、石材の位置特定を行うシステムを開発しました。
飯田丸五階櫓を対象に崩落した石材の元の位置を約9割の精度で特定
今回、飯田丸五階櫓の南面312個、および東面159個の石材に対して「石垣照合システム」を用いた照合を行った結果、事前に熊本市が目視で特定した結果と比較して、約9割の正答率となりました。
また、目視では判断がつかなかった43個の石材を新たに特定した他、目視では別の候補が示されていた17個の石材について適切な候補を示す事に成功しました。
熊本城総合事務所 所長 網田龍生様のコメント
地震後の早期段階から、熊本大学上瀧剛准教授の発案で石垣照合システムの開発に取り組み、有効な結果を示していただき感謝しています。また、凸版印刷が保有する熊本城被災前の記録データは石垣照合をはじめ復旧作業の随所で役立っており、改めて文化財の網羅的なデジタルアーカイブの重要性を痛感しております。今後も熊本城の石垣復旧にはまだ長い期間を要しますが、システムが更に進化し、早期復旧に繋がることを期待しています。
今後の目標
熊本大学と凸版印刷は、今後計画されている他の石垣復旧工事に向けて「石垣照合システム」の更なる精度向上と効率化を進め、技術支援を通じた熊本城の早期復旧への貢献を目指します。
熊本大学が、熊本市と相互に協力し、熊本市及び熊本都市圏をはじめとする地域社会の発展と人材の育成に寄与することを目的に、平成19年4月26日に締結されました。
* 本ニュースリリースに記載された内容は発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。
以上