世界が注目するVRとデジタルアーカイブの技術

「VRってよく聞くようになったけど、よくわからない……」「実用化っていっても、ゲームやアトラクションの世界の話じゃないの?」
まだ、そんな風に思っていませんか?

実際には存在しない3次元の空間と新たな体験をつくり出すVR(仮想現実)。この技術に関わる市場規模は、大きな成長が見込まれる分野として注目を集めています。また、ゲームなどのエンターテイメントのみならず、ファッション、不動産、教育、自動車、医療、はたまた宇宙産業まで、その活用の場はあらゆる領域へと広がり、近い将来、私たちの暮らしを大きく変えていく可能性を秘めています。

こうした状況を背景に、TOPPANではデジタルアーカイブ……つまりは、文化財のデジタル保存の技術と組み合わせながら、VRの技術開発を進めてきました。
文化財保存とは、先人たちがつくり上げてきた文化を記録し、次世代へと伝える重要な仕事。長年にわたって印刷メディアの進化に心血を注いできたTOPPANだからこそできることがあるはず。

今回は、そんな想いのもとにはじまった、TOPPANのデジタルアーカイブとVR技術の活用が、私たちの暮らしをどのように変えていくのか。その先に広がる未来の一部をご覧いただきたいと思います。

有史以来、人類が挑んできた
「守り、伝える」というメディア事業

先人たちがつくり上げてきた文化を守り、次世代へと伝えること。
それは、一見すれば、とても伝統的で、テクノロジーとは少し遠い場所で行われてきたことのように思われがちですが、人類の歩みを振り返ると、常に、メディアの最先端が関わる大きな事業分野だったとも言えます。

そう。今日、私たちが数千年前の出来事を知る手かがりとしているものの多くは、世界中の人々が記した記録であり、その記録の多くは、当時、最先端のメディアでした。

壁画、木簡、パピルス…そして8世紀頃、中国で登場したと言われる活版印刷から、15世紀にグーテンベルクが発明した活字、18世紀に発明された写真、19世紀には映像が誕生し…と、有史以来、記録媒体の進化は常に、歴史を記録すること。つまりは、過去に起こったこと、存在したものの守り方、伝え方とも密接な繋がりがあったのです。

VR作品『日光東照宮 国宝 陽明門』
製作・著作:日光東照宮/凸版印刷株式会社

経年劣化や災害による消失という壁を越える、新しい文化財保存の方法

そもそも、「文化を守り、伝える」という事業に取り組もうとするとき、必ず行き当たるのは、遺された建築物や工芸品・美術品の「保存」という課題です。
どんなに荘厳な神社仏閣や、技巧を凝らした仏像、彫刻、絵画も、長い時間の中で、少しずつ劣化して行ってしまう。時には自然災害や火災によって永遠に失われてしまうことも珍しくはありません。これはどんな技術を使っても、完全に防ぐことは不可能です。

TOPPANでは、メディアの担い手として培ってきたテクノロジーを駆使し、この課題をクリアしようと考えました。それが物体の正確な形状をデジタル化する立体計測技術や、印刷の分野で培われた「カラーマネージメント技術」や高精細な画像処理技術を核とした、「デジタルアーカイブ」という手法。「アーカイブ」とは元来、「公記録保管所」、または「公文書の保存所」などを意味する言葉ですが、これがデジタル技術と組み合わさることで新しい概念へと進化を遂げました。

VR作品『唐招提寺~金堂の技と鑑真和上に捧ぐ御影堂の美~』
製作・著作:凸版印刷株式会社/TBS
監修:鈴木嘉吉・大山明彦
協力:唐招提寺
データ提供 独立行政法人 情報処理推進機構
      先導的アーカイブ映像製作支援整備事業より

ただ、保存するだけではなく、リアルな体験として伝えていくVR化の試み

デジタルアーカイブに取り組むと言うことは、単純に精密に保存すればいいと言うことではありません。保存するだけでは、いつか忘れ去られ、記録ではなく、記憶が失われて行ってしまうからです。
そこで、TOPPANが目をつけたのが、デジタルデータをリアルな体験に変換し、より多くの人に伝えていくVR(仮想現実)というテクノロジーでした。

中でも、『唐招提寺~金堂の技と鑑真和上に捧ぐ御影堂の美~』は、東山魁夷が鑑真和上の高い志に感銘を受けて描いたという御影堂の障壁画や、唐招提寺の伽藍を忠実に再現。その場にいるような臨場感が味わえるVR作品として話題を集めました。

その他にも、故宮、洛中洛外図屏風、熊本城、日光東照宮など、名だたる建築や美術工芸作品のデジタル化とVRコンテンツ化に取り組み、現在では国内外50以上にのぼる文化財を保存し、魅力的なコンテンツへと昇華させています。

VR作品『江戸城の天守』
製作・著作:凸版印刷株式会社

100万を超える部材を精緻に再現した、VR作品『江戸城の天守』

その中でも、今回は2017年1月に公開されたVR作品『江戸城の天守』についてご紹介していきましょう。
このプロジェクトは、現存しない江戸城天守を、史料や歴史考証を元にデジタルで再現する試みでした。
石垣や瓦はもちろん、葵紋の金具に刻まれた葉脈や、鯱の鱗を留めるための鋲など、100万個を超える部材を細部にいたるまで精緻にデジタル化。大きなスクリーンに実寸大で表示することで、歴史的文化財をリアルな体験として伝えることを可能にしました。

TOPPANのVR作品の大きな特徴のひとつは、必ずその文化財の所蔵者や専門家や有識者の学術的監修を受けて、可能な限り忠実なデータ構築と再現を進めていること。だからこそ、かつてそこにあったものを再現し、体験するだけでなく、歴史を多角的に考え、次世代へと語り継がれる魅力的なコンテンツへと昇華させることができるのです。

目指すは時間を越えるタイムマシーン!?AR体験×観光のミライとは

「松本城おもてなし隊による VR体験」

日本のみならず、世界には、天災・人災、あるいは予期せぬ事態などで、失われてしまった史跡や歴史的文物が数多く存在します。例え、運良く現存していても、誰もが気軽に手に取ったりすることは難しい場合がほとんどです。こうした状況を変え、地域の歴史文化を、もっとオープンな資産へと変えていくことも、TOPPANの印刷テクノロジーの使命です。

デジタルアーカイブが「遺す技術」であり、VRは「伝える技術」である。というお話はすでにしてきましたが、もう一つ忘れてはならない技術にAR(拡張現実)があります。例えばVRが専用の空間やデバイスを使用して、利用者に別の世界にいるような感覚を与えるのに対し、 ARは、目の前の風景に、別の映像や画像などを重ねて、「新しい現実」をつくり出すことが大きな特徴。

デジタルアーカイブの技術と、これらVR/ARの技術を掛け合わせれば、すでに消失してしまったお寺を復元して、実際にあった場所に蘇らせ、数百年前の景色を観光客に案内する。新たな視点から歴史を考えるきっかけをつくる……そんな多様なコンテンツの展開も可能になります。

目指すは時代を越えた体験を提供する「タイムマシーン」。世界中の観光地や歴史的な史跡で、誰もが気軽にタイムスリップして、より深く、より楽しく、その地域と文化と歴史に触れられる。そんな未来をつくるために、TOPPANはさらに前進を続けていきます。

デジタル変革で「買う側」の生活も「売る側」のビジネスも豊かにするミライ