上原祥広:2015年、法政大学法学部を卒業後、凸版印刷(当時)に入社。エレクトロニクス事業本部の営業部門に配属され、半導体の営業に携わる。2020年10月よりマーケティング部へ異動し、新規ビジネスの企画を担当。現在は各種施設向けの点検支援サービス『e-Platch™(イープラッチ)』企画販促活動全般に携わる。

写真:記者の取材に答える上原祥広①

豊かな環境に育まれた好奇心と探究心

出身は海辺の街・神奈川県茅ヶ崎。

「幼少期から海や川、森で遊ぶことが日常でした。毎日のように虫や魚を追いかけていたので、母には“人間の友達より自然の生き物と遊んでるほうが多いんじゃない?”と言われたほどです(笑)」(上原、以下同様)

大学では法律を学び研鑽に励む一方、趣味のスポーツにも熱中。

「特に中学時代から始めたテニスに力を注ぎ、友人と切磋琢磨する日々でした。今でも休日にはコートに足を運び、テニス仲間と交流しています。」

何事にも興味を持ち、夢中になって取り組む上原の姿勢は、そんな時期に培われたものでした。

就職活動では幅広い業界を視野に入れ、可能性を探ったという上原。その中で目に留まったのが凸版印刷(当時)でした。

「最初は食品・菓子などのパッケージデザインに興味を惹かれたのですが、様々な業界に関わりながら幅広いソリューションを提供している会社なのだと知り、さらに魅力を感じました。」

入社後はエレクトロニクス事業本部に配属。配属先での業務は、専門的な技術知識が求められる半導体の営業でした。

「具体的にはLSIの開発・設計サービスおよびターンキーサービス(お客さま要求仕様に基づいたLSIソリューションを提供するサービス)の営業という業務内容でした。当初は半導体に関する知識が薄く、1~2年目は非常に苦労しました。それでもお客さまや社内関係者と根気強く会話を繰り返していく中で、徐々にではありますがニーズに応じた提案ができるようになっていきました。お客さまの課題を解決することに喜びを感じるようになったのも、そうした経験があったからだと考えています。」

写真:記者の取材に答える上原祥広②
e-Platch™アプリ グラフ画面例

営業経験で培われた課題解決力

2020年にマーケティング部門へ異動。新たな挑戦として臨んだのが、スマート点検支援サービス『e-Platch™』でした。TOPPANが開発した『e-Platch™』は、工場などの施設内にある計測器から環境データを自動収集し、見える化するシステム。ZETAというLPWA(Low Power Wide Area)無線通信規格を用いることで、広範囲かつ複雑な構造を持つ施設においても、手軽に死角のない通信ネットワークを構築できる点と、幅広いセンサーラインナップが特長です。

「SDGsの重要性が叫ばれる昨今、どのような工場においても環境データの点検作業は不可欠なものであり、その重要性は日々高まる一方です。しかし、多くの人の手を介するということは、それだけ人的ミスのリスクも高くなるもの。『e-Platch™』はこれを自動化し、精度を高めることで効率化と安全性の向上を図るものです。実際に2022年より『e-Platch™』を導入・運用を開始したTOPPAN熊本工場では、従来の巡回点検作業のうちの7割強を削減することに成功しました。さらに、浮いた時間を今まで外部業者に委託せざるを得なかった作業に充当するなど、人材の有効活用が可能になるといった効果も出ています。」

取得するデータの点数が増大したことで、継続的な傾向監視やデータと実態との照合も可能に。薬液の削減や電力使用量の見直しといった改善にもつながり、環境配慮工場の実現に向けた大きな力となっています。

写真:記者の取材に答える上原祥広③
e-Platchを構成する機器の一例 (左から、収音センサー、マルチセンサー、ZETABOX‐Smart)

喜びの声をモチベーションに変えて

その一方、営業経験から来るジレンマもあると上原は話します。

「営業部門だった頃は、お客さまそれぞれの求める水準や仕様に沿ってカスタマイズしたものを提供することがほとんどでした。それに対して『e-Platch™』の場合は、点検支援を目的とするプラットフォームの提供になるため、様々な業種の工場や施設への導入を可能とするための汎用性が求められるといった側面があります。今までの経験からも、目の前のお客さまのご要望には100%応えなければという思いがあるのですが、タイミングによっては取り入れられるものとそうでないものがあり、歯がゆい思いをすることもあります。また、今まで営業として扱ってきたものとは全く異なる形のソリューションということもあり、お客さまへのご提案の仕方も全く異なるスタイルが求められます。」

そうした中でも社内外から多数のフィードバックを得る中で最適な解を模索し、『e-Platch™』は進化を続けています。

「『e-Platch™』を導入されたお客さまからの“オペレーションが改善しました”というお褒めの言葉や、“業務がとても楽になりました”といった感謝の声をいただく瞬間は、本当に嬉しいもの。それまで仮説立ててきたことの答え合わせの瞬間でもあり、これに勝る喜びはありません。」

お客さまの喜びの声は、『e-Platch™』をより良いものへと更新するための原動力にもなっています。

「現在の『e-Platch™』を活用いただくことで、環境データの傾向分析、異常値が記録された際のアラートやレポート生成などの機能により点検作業の効率化を実現することは十分可能となります。しかし、環境配慮工場を実現するためにはそれだけでは不十分です。大切なのは、現場ごとのオペレーションや設備の状況、エネルギー使用量などに応じた、現場改善や課題解決に向けた提案まで図っていくこと。サービスの一環として、そうしたコンサルティング機能も組み込んでいければと考えており、そこまでして初めて本当の意味でのDXだろうと考えています。」

写真:ソファーに足を組んで座る上原祥広

『e-Platch™』から広がる無限の可能性

上原は、『e-Platch™』の新たな可能性にも目を向けます。

「『e-Platch™』はZETAの特長を活かすべく生まれたシステムですが、場合によっては他のLPWA無線通信規格や他社サービスとも連携し、より現場の業務効率化や環境面に寄与する方法を模索していく必要があります。また、SDGsが半ば常識のように扱われている今、『e-Platch™』が扱う環境データの重要性が世界的にも高まっていることは間違いありません。国ごとの法規制や運用基準をクリアする必要はありますが、今後は海外展開も視野に入れ、積極的にチャレンジしていきたいと思っています。」

そう語る表情には、『e-Platch™』に携わってきた自信と誇り、そして『e-Platch™』から広がる無限の可能性への確信がうかがえます。

「点検業務や保守業務は、これからも必要不可欠な仕事。そして、夏の炎天下であろうと、台風や大雪に見舞われる日であろうとも、正確な作業が求められる仕事です。しかし近年は働き手不足の問題もあり、特に地方においては人材の奪い合いが起こるほどの状況です。『e-Platch™』が各企業や自治体へと普及し、点検業務や保守業務の一端を担うことができれば、社会全体の環境事故撲滅、エネルギー使用量の最適化などに寄与することはもちろん、各現場でデータを活用した改善活動の検討を行えるようになるなど、保守・保全業務という枠組みの中でも新しいことに挑戦していくといった働き方改革やリスキリング、人的資本経営の実現に繋がっていく側面もあると考えています。」

『e-Platch™』をさらに世の中へ広げ、環境・人・暮らしを支えるソリューションを提供する──。そんなビジョンが現実となる日まで、上原の挑戦は続きます。

※2024年12月公開。所属等は取材当時のものです。

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