
川端新伍独自のAIの取り組みを 先導するトップランナー
川端 新伍:2008年、東北大学大学院情報科学研究科修士課程を卒業後、凸版印刷(当時)に入社。グループ内の工場システム(Naviシステム)の企画、開発、導入に従事した後、2018年より要素技術、製造系DXソリューションの開発を担当。2023年よりチームリーダーとして生成AIの技術確立からサービス開発支援、先端IT技術を活用したワークスタイル変革など、幅広い領域で活躍中。

様々な技術獲得を土台として工場を渡り歩き、システムを立ち上げる
今、TOPPANではAIのビジネス活用を積極的に進めています。これをリードする1人が、デジタルイノベーション本部 テクニカルセンター スマートテクノロジー部の川端です。
中学時代から自宅にあったPCで簡単なプログラムを組んだりするなど、PCを用いたモノつくりに興味があったという川端は、ゲームを作ってみたいという動機から情報系を学び、2008年に凸版印刷(当時)に入社します。
最初に配属されたのは部署での川端の仕事は、工場の物流や生産フローなどをコンピュータ上に再現して、最適な物流経路や生産フローを計算し、それを現場に落とし込むというもの。『工場DX』の先駆けといえるような取り組み(今で言うデジタルツイン)でした。
「シミュレーションを組んでも、それがきちんと機能するかどうかは現場に行かないとわかりません。ですから実際にシミュレーションを組むより、現場で検証を行っている時間の方が長かったです。」(川端、以下同様)
その後、2010年から約8年間、社内IT部門として工場システムの開発を主業務にするようになります。
「生活系、情報系、エレクトロニクス系と、多様な工場のさまざまなシステムを手掛けました。当時は海外も含めて工場の新設が多かったため、システムも新規で最先端目指して立ち上げるものが多かったですね。実際の現場で使うシステムを開発して導入して、それが終わったら次の工場に行ってということを繰り返していました。」

TOPPANならではのDXを目指して
2018年から川端は新たなミッションに挑みます。それは新しい要素技術の探索と製造DXソリューションの開発です。
「工場の新設が一段落したタイミングで、社内の工場システムで培ったノウハウの商材化の検討が始まりました。私たちはノウハウのどの部分を抽出すればいいのか、新たに追加すべき技術要素はないかを調べる調査・研究・実用モデル化を担当していました。」
それまで社内IT部門として仕事をしてきた川端は、お客さまに提供するサービスを開発する難しさに直面したといいます。
「競合するソリューションがたくさんある中で、TOPPANのDXならではの差別化をどう製品に組み込めばいいのか、またクオリティやコストを確保できるのかを手探りを続けていたという印象が強いです。」
VRゴーグルを試したり、ドローンを飛ばしたりといった、まだ成果にできていない技術検証もありますが、川端らが苦心した結果は、現在『NAVINECT®︎』という製造DX支援ソリューションの一部として結実しています。


生成AI専任チームの発足
2023年、川端はチームを率いる立場になると同時に、生成AIに関与するようになります。
「2018年から始まった製造DXソリューション開発の一環で、追加すべき要素技術の中に『生成AI』を上げており、今後取り組む必要があるテーマとしていました。」ところが、突如としてChatGPTが爆発的に話題になったことから、川端らのチームは生成AIに中心に技術研究・開発を行うようになりました。
2023年7月には、川端らのチームで開発を行ったTOPPANグループ内向けチャット型AIサービスを開始しました。
「2022年度からChatGPTの検証を始めていましたが、ChatGPTは個人で登録できるクラウドサービスのため、当初問題になったのが情報漏洩のリスクがあるということでした。そこでChatGPTのようなサービスを社内で安全に利用できるようにという主旨で開発しました。」
このチャット型AIサービスの開発と並行して、川端らのチームはTOPPAN独自の生成AIモデル『SunameLLi®(スナメリ)』の開発にチャレンジしています。これは公開されている生成AIモデルをベースにTOPPAN独自データを追加学習させた、いわばTOPPAN専用AIモデルと呼べるもの。この開発に膨大なトライ&エラーを繰り返したと川端は話します。
「当初は強い興味は持ちつつも何をすべきか迷い、戸惑い、それこそ文献を調べながら手探りで開発していました。たとえば数週間かけて学習させたものの、使い物にならなかったバージョンがいくつもありました。」当時は学習に用いるITリソースの調達にパブリッククラウドのサービスを利用しており、日に日に膨れ上がっていくコストも気が気ではなかったと振り返ります。
「どうにか使用できるレベルの性能を発揮できたときには、ようやくプレッシャーから解放された安堵と、会社の貢献できるという喜びと、チームメンバーの頑張りや関係者のみなさんのご協力への感謝で感情が溢れました。」


AIで社内業務効率化、課題解決に貢献
2023年11月、TOPPANホールディングスは、生成AIの活用により社内システムプログラム開発の業務効率が約70%向上したというニュースリリースを発表しています。この取り組みを主導したのも川端らのチーム。開発の背景を次のように説明します。
「生成AIをグループ内で使うというときに、まずは自分たちで実利用してみようというのがきっかけでした。まずは新しいシステムの開発においてプログラミング工程を中心に効率化できそうということで、そこに適用しましたが、その後レガシーと呼ばれる若い人には馴染みのない言語で開発されている旧世代システムの更新にも活用の幅を広げています。」
レガシーシステムは古いプログラム言語で作られており、AIが意味を解釈できないケースもあるなど、まだまだ一筋縄ではいかないこともあるとのことですが、プロンプトエンジニアリング(AIへの質問の仕方を工夫する手法)などの活用スキル強化やAI自体の強化で道は拓けつつあるとも。
さらに直近では、長年の工場立ち上げで培った実用化ノウハウを生かして工場での技能伝承に用いるAIも開発しました。熟練技術者の設備保全ノウハウや言語化されていなかった暗黙知を学習させた、機械の故障やメンテナンスに活用できるAIです。高い技能を備えた人材不足に悩む工場の課題解決に役立つこのAIは、すでに6つの工場で導入が済んでおり、年間で合計750時間もの作業削減に貢献しているとのこと。
「AIに限らずですが、IT、DXの分野は技術の進化が非常に速く、追いつくだけでもすごく大変です。他社のAIを使った新しいサービスを見ると、なぜ自分にこの発想がなかったのかと触発されることもあります。私たちもそうしたものを作り出している自負はありますが、グループ内の関連部門とも連携し、今後はより一層そうしたことが実現できるチーム、部署、会社にして行きたいと思います。」と意欲を燃やす川端。彼らの日々の奮闘が、次なるTOPPAN発の革新的なAIサービスにつながっていくのです。
※2025年2月公開。所属等は取材当時のものです。