• 写真:船橋 直人
    船橋 直人
    建築物の外壁防水材などを扱う企業で、営業職や企画職として勤務ののち、2022年に凸版印刷(株)に入社。マーケティング戦略本部で、ダブルビュー®︎プロジェクトの立ち上げと運営を担当する。2023年にビジネスデザイン本部に異動し、自動車業界、太陽光発電業界などへのダブルビュー®︎売り込みに奔走中。
  • 写真:武田 忠
    武田 忠
    携帯電話の設計を行う会社での勤務を経て、2006年に凸版印刷(株)に入社。パッケージ事業部にて携帯電話の部材や、車載パーツのプラスチック部品の開発に携わる。2019年に環境デザイン事業部へと異動し、プラスチック技術の専門家としての観点から、ダブルビュー®︎の開発や、新市場開拓に取り組んでいる。
  • 写真:大久保 恵介
    大久保 恵介
    2002年、TOPPANグループの商社である(株)トッパン・コスモ(現・TOPPANコスモ株式会社)に入社。主に建材関連の法人営業業務に14年間従事したのち、2016年に凸版印刷(株)に転籍。引き続き、各種建装材の営業職に従事。2023年、マーケティングチームに異動し、透過加飾技術を駆使した化粧シート「ダブルビュー®︎」の企画を担当。プロダクト企画からニーズ調査、販売戦略策定まで一貫して携わり、空間デザインとデジタルを融合させる新しい価値の創造に取り組んでいる。

各分野の専門家が集結した「ダブルビュー®︎チーム」

なんの変哲もない木の壁面に、突然あざやかな映像が浮かび上がり、滑らかに動く…。2025年8月から放送していたTOPPANのテレビCMのストーリーです。このCMで取り上げられているのが、今回ご紹介するデジタル木材「ダブルビュー®︎」。TOPPANが印刷で培った知見から生まれたこの技術に命を吹きこみ、さまざまな活用を目指して挑戦を続けているのは、企画担当の大久保、開発担当の武田、営業担当の船橋からなるチームです。彼らはまったく異なるバックグラウンドを持ちながら、このダブルビュー®︎普及のために集められました。

写真:記者の取材に答える船橋 直人・武田 忠・大久保 恵介①
タブレット型プロダクト(開発検討中)

大久保 私はもともと、TOPPANグループの商社である「トッパン・コスモ(当時)」に入社して、ずっと建装材の営業に携わっていました。大学では商学部に所属していましたが、いろいろなことを経験できそう、という理由でトッパン・コスモに入社したんです。14年間ほど、そこで内装材をはじめとする各種建装材の営業に携わり、さまざまな知見を得ました。その後2023年に環境デザイン事業部に移籍となり、このダブルビュー®︎の企画担当になりました。これまでずっと営業畑を歩いてきたので、「企画担当」という役割には最初は戸惑いましたが、建装材という商品の特性でもある「お客さまからの発注を受けて納品する『受注産業』」を脱して、新しい販売スタイルを構築することを目指してほしい、と言われました。

船橋 私は将来、数学の教師になるつもりで、大学時代は教育系の学部に通っていて、実は数学の教員免許を持っていました。ただ、就職を真剣に考える中で、友人の話をきっかけに「中間素材(さまざまな製品に加工される前の素材)」に興味を持って。それで、教師から一般企業への就職に切り替えて、建物の外壁防水材を扱う会社に入社。その会社で17年間働いたあと、2022年に凸版印刷(当時)に転職して、2023年からダブルビュー®︎に関わることになりました。ダブルビュー®︎は内装に使われることが多いですが、私はそれまでずっと「外装」を扱ってきたので、同じ建築物相手でも求められる性能や条件がまったく変わってしまい、当初なかなか大変だと感じたのを覚えています。

武田 私はお二人とは違って、前職では建材系ではなく携帯電話メーカで商品設計を10年程行ってきました。そこでの経験は今でも役立っております。その後、凸版印刷(当時)に転職し生活・産業へ配属され、携帯電話部品の生産に関わることになりました。図面を作成する側から、製造する側になったわけです。設計者の意図をくみ取って製造しやすくしたり、新たな意匠提案をすることで、今までにない製品を得意先と一緒に製作してきました。そして2022年からダブルビュー®︎に関わることになりました。内装材というのは専門外の領域だったのですが、「プラスチック加工の知見を活かして、新たな建材商品を作る」という狙いで配属されたと聞きました。

内装材、外装材、そしてプラスチック。異なる知識・経験・バックグラウンドを持つ3人が集められたのは、社会のさまざまなシーンで活用できる可能性があるダブルビュー®︎という製品を、より自由に社会に活かす方法を探るためでした。営業担当の船橋がお客さまの要望を詳しくヒヤリングし、企画担当の大久保が使い方や仕様を細かく想定。開発担当の武田がその実現性を追求する。3人それぞれの能力を活かして、ダブルビュー®︎の可能性の探求がはじまりました。

目指すのは「シームレスな空間」

ダブルビュー®︎は、「一方の光を通し、逆側の光を反射する」という性質を持った特殊なフィルムを映像ディスプレイの上に貼ることで、ディスプレイが「オン」の時と「オフ」の時で違った見え方を生み出す、いわばマジックミラーのような技術です。光を反射する側に「木目」や「大理石」などのテクスチャを印刷しておくことで、普段は「ただの木や大理石の壁」に見えながら、映像ディスプレイのスイッチをオンにすると、映像があざやかに映し出されます。その誕生の端緒となったのは、環境デザイン事業部の主要商材の一つである「内装用化粧シート」からでした。

写真:記者の取材に答える船橋 直人
写真:エントランスロビー
写真:記者の取材に答える武田 忠

船橋 もともと我々環境デザイン事業部は、建物の内装材をずっと手がけてきましたが、その中で建築物のインテリアに関していろいろなご要望を伺うことがありました。たとえば会議室の壁にはよく、黒くて大きな映像ディスプレイが存在感たっぷりに設置されていますよね。ああいったものに違和感を感じる方も多くいらっしゃいます。それをどうにかしたい。空間をデザインする部署として、「すっきりとした空間」を阻害する要素を排除して、気持ちの良い空間をつくりたい、という思いがありました。

大久保 我々はそういった、阻害するもののない状態を「シームレス」と呼んでいます。余計なものを排したシームレスな空間を作りたい、という思いが、ダブルビュー®︎誕生のきっかけです。

TOPPANでは昔から、その印刷技術を活かして内装用化粧シートの製造・販売を手掛けてきました。そのため、社内には木目や大理石などの画像ライブラリの蓄積があり、また内装材に関する豊富な知見もありました。それらの技術や知見が一つとなって結実したのがダブルビュー®︎。最先端のこの技術には、印刷会社としてのDNAがしっかりと刻まれています。

大久保 いまは、オフィスやホテル、そしてマンションのエントランスロビーなどの公共スペースの壁面への展開を構想しています。よくマンションのエントランスでは、居住者へのお知らせが掲示板に乱雑に貼られ、景観を損なわれているケースが見受けられます。ああいったものを、必要ない時は見せないようにすることで、より美しくスマートな空間に変えることができるのでは、と考えているんです。最近のマンションは、エントランスのデザイン性にもこだわった物件が多いですから。

さらに、同じ「インテリア」というキーワードのもと、「居室」に続き「自動車の車内空間」へと、提案の舞台が広がっていきます。

自動車のダッシュボードには通常、各種メーター類やナビゲーション画面、エアコンなどの操作スイッチなどが並んでいるのが一般的です。それらは使わない時には不要なパーツですし、それらが「見える」ことで、車内の空間がゴチャゴチャしてしまいます。それらを「使わない時は見えないようにする」ことで、すっきりした室内空間を作る。その狙いについて、船橋はこう話します。

船橋 これから自動運転が普及すると、車内での過ごし方も、自宅と同じようになっていくのではないでしょうか。そうなると、車内インテリアもまた、住宅と同じようなものが求められていくと考えています。くつろいで過ごせる空間を作るためには、あまり機械っぽくない、すっきりとシンプルな内装がいい。それを実現する方法として、ダブルビュー®︎の技術がマッチするシーンがあると思います。

2024年には、横浜と名古屋の2カ所で開催された自動車関連の展示会「人とクルマのテクノロジー展」に、環境デザイン事業部としてはじめてブースを出展しました。この展示会では、自動車のダッシュボードを模したモックアップを展示。何もない木目のダッシュボードに、ナビゲーション画面や電話の通話画面、自動車の設定画面などが表示される様子を実際に目にしてもらったところ、その反響はとても大きなものでした。

大久保 あの展示会の手応えは大きかったですね。展示したモックアップでは、皆さまに非常に驚いていただいて。ブースの外まで人が溢れるほど、多くの方に興味を持っていただきました。こんなに大きな反響を得られるとは、チームの誰も予想はしていなかったのですが、この体験はその後ダブルビュー®︎の開発・販売を進めていくうえで、とても大きな自信になっています。

社会課題の解決に「ダブルビュー®︎」の技術が活きる

インテリアから始まったダブルビュー®︎のユースシーン。現在は、その領域を飛び出して、新たなニーズの開発に取り組んでいます。その一つが「太陽光発電パネル」です。

現在日本では「2050年のカーボンニュートラル達成」という目標に向け、産官が協力して再生可能エネルギーの導入が強く推し進められています。その結果、オフィスビルや工場、家庭の屋根などに太陽光発電パネルが設置されている風景をよく見るようになりました。しかし、黒くて無機質な太陽光パネルは、建築物や住居の外観デザインを損なう「ノイズ」となってしまいます。

その太陽光発電パネルに、建物の外観に溶け込む柄のダブルビュー®︎を貼ることで、建築物のデザインを損なうことなく太陽光発電パネルを設置できるのでは、というアイデアです。

写真:記者の取材に答える大久保 恵介
写真:チームのメンバーと打ち合わせをする船橋 直人・武田 忠・大久保 恵介

船橋 この太陽光パネルについては、企画チームから「こういう風に使えるんじゃないか?」というアイデアが提示されたことがきっかけでしたね。大久保さんの企画チームが、ダブルビュー®の特性を活かせる利用シーンを考えて、武田さんの開発チームがその実現に向けて開発して、それを営業の私が売りにいく。従来の「受注産」ではない、「提案型」のビジネスになりました。

大久保 今後、太陽光発電のニーズが高まっていくことで、住宅の屋根だけでなく外壁などにも太陽光発電パネルを取り付けることになるかもしれません。その際に、あの黒くて大きなパネルはどうしても重い印象になりますよね。しかし、外壁材をデザインしたダブルビュー®のフィルムを貼った太陽光パネルを取り付けることで、一見するとただの外壁材なのに、実はしっかり発電している、といったことが可能になると考えています。

武田 開発チームでも、企画チームからの相談を受けて、実際にダブルビュー®を太陽光発電パネルに貼り付けて発電効率を測定してみましたが、大きな発電ロスは見られず、十分に実用に供するものでした。もちろん、風雨や太陽光にさらされる屋外で使用するわけですから、耐候性・耐久性・紫外線への耐性など、内装材として使用するケースに比べ、より高いレベルでの性能が求められますが、さまざまな実験等により実用化の目処はほぼ立っています。

大久保 太陽光発電パネルの件は、武田さんにいろいろ相談するわけですが、武田さんは何を相談しても「無理」と切り捨てないところがいいんですよね。ネガティブなことを言わずに、どんな相談をしても前向きに考えてくれる。企画担当としては、そこにとても助けられています。

船橋 営業からも、開発・企画のお二人とも営業経験があるので、お客さまがこう困っているとか、どうすれば喜ぶか、ということを、お客さま目線で考えてもらえるのは、とても頼もしいところです。

日本のエネルギー生産と、都市空間のデザイン性という課題。二つの社会課題の解決は、これまで相反するものでした。しかし、ダブルビュー®︎という技術と、お客さま目線から考える三人のチームワークで、この二つの課題をともに解決できる可能性が生まれています。インテリアからはじまったダブルビュー®︎ですが、その活用シーンは、今後さらに広がっていきそうです。

目指すのは「生活のさまざまなシーンをシームレスに」

順調に認知拡大を図るダブルビュー®︎チームに、2025年、二つの「朗報」がもたらされます。一つは、ディスプレイの国際的な賞である「ディスプレイ・インダストリー・アワード」で「年間最優秀ディスプレイコンポーネント賞(Display Component of the Year)」を受賞したこと。そしてもう一つは、同じく2025年10月に、「グッドデザイン賞」を受賞したことです。特にディスプレイ・インダストリー・アワードは、TOPPANのような「映像ディスプレイメーカーではない企業」が受賞することは極めて異例です。そこには、ダブルビュー®︎の普及によって実現される、「新たな価値の創造」への期待がありました。

写真:ディスプレイ・インダストリー・アワード 年間最優秀ディスプレイコンポーネント賞(Display Component of the Year)のクリスタルトロフィー
写真:オフィスで談笑する船橋 直人・武田 忠・大久保 恵介

船橋 正直なところ、このような大きな賞をいただけるとは誰も予想していませんでした。せっかくだから応募してみようか、くらいの気持ちだったので、皆とても驚いたのを覚えています。自分たちだけで、「ダブルビュー®︎は良いですよ」と言うだけではなく、こうした賞を受賞することで「第三者から認められた」ことが証明されたのは、私たちにとっても大きな自信となりました。

ディスプレイ・インダストリー・アワードや、グッドデザインといった賞の受賞。そして展示会での予想を上回る反応。テレビCMによる各種問い合わせ。社会のダブルビュー®︎への期待・関心の高まりを感じながら、さらなる活用シーン拡大を目指すダブルビュー®︎チーム。その3人の思いは、それぞれです。

船橋 営業担当としては、今後は「家電」や「照明」分野への活用を考えています。シンプルなデザインの家電のボディにスイッチが現れたり、何もない平面の天井に照明が現れたり。ダブルビュー®がさまざまな場面に活用されていくことで、より「シームレス」な空間が作れるのではないかと考えています。将来的には、ダブルビュー®を軸に空間全体を作っていくような提案ができたらいいですね。

武田 さまざまな可能性を持つダブルビュー®︎が採用されるシーンが、もっと増えていけばと思います。しかし、現在のダブルビュー®︎も完璧ではありません。どうすれば画質をより高めることができるのか。もっと違和感なく映像を映し出せるのか。より良い製品にしていくために、まだまだ追求しなければならないことはたくさんありますし、そこにゴールはありません。

大久保 テレビCMの放送をきっかけに、「こんなことに使えないか」という問い合わせを多数いただきました。その中には、私たち企画チームが考えもしなかった活用法もあり、あらためてダブルビュー®︎のポテンシャルを感じています。ただ、その一方で、その可能性を上手に伝えることはとても難しく感じています。「どう使うと良いか」「使うことでどんな価値を生み出せるのか」をお客さまにどう伝えていくか。そこが企画担当としての私の課題です。今後もっと多くのお客さまにご採用いただき、将来はどの家庭にも一つはダブルビュー®︎の製品がある、というくらい普及させることができたら嬉しいですね。

テレビCMの放送や権威ある賞の受賞により、各方面から注目が高まっているダブルビュー®︎。

建築の枠にとらわれず、さまざまな分野からの問い合わせも増えており、その中で新たなニーズや、活用法のヒントももたらされています。

さまざまな社会課題の解決につながる可能性を持ったダブルビュー®︎の進化は、これからが本番。シームレスな空間の実現に向けた3人の「終わりのない挑戦」は、これからも続いていきます。

※2026年1月公開。所属等は取材当時のものです。

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