
勝亦 優簡便かつ迅速な検査技術の革新者。新たな挑戦=ジェンダード・イノベーション視点で社会の課題解決に挑む
勝亦 優:2007年に凸版印刷(当時)に入社。総合研究所にて医療・ライフサイエンス領域における新規検査技術開発としてNEDOプロジェクトなどに従事。生活・産業事業本部にて経理業務、情報コミュニケーション事業本部の企画業務も経験。現在は、情報コミュニケーション事業本部の技術部門のチームリーダーとしてTOPPANのコア技術であるCMS(カラーマネジメントシステム)の事業化推進、外部学術機関と連携したイノベーション技術開発を担当。女性医療における新たな検査技術の開発に挑戦している。
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人脈形成と視野を広げた多彩な経歴
TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 技術開発部本部 CMS技術部のチームリーダーの勝亦は一風変わった経歴の持ち主です。学生時代の専攻はバイオテクノロジー系。師事していた教官の同級生で凸版印刷(当時)のライフサイエンス分野の技術顧問を務める人物からの声掛けにより、2005年に研究助手として総合研究所のプロジェクトに入ったのが始まり。「実はこの時まで凸版印刷という会社名さえ知らなかったんです。そんな私にとって技術顧問の方との出会いは本当に大きなものでした。アメリカでも研究をされ、ベンチャー企業の立ち上げの経験もあり、“常に新しいことを突き抜けてやれ”が信条。新技術開発も新事業開発にも携わっていきたいというマインドのきっかけになっています。」
(勝亦、以下同様)
2年間、核酸(DNA・RNA)やタンパク質検出などによる新たながんの検査技術に取り組むなか、「社員になったら今以上に自分の好きな研究に取り組むことができるよ」と背中を押され、2007年に正社員になったのでした。
「当時、東京大学・島津製作所との共同研究はとても刺激的でした。と同時に、国内トップクラスの方々と接するなかで、研究に対する哲学や能力などに圧倒的な差を実感し、この分野では絶対に勝てないという挫折を経験しました。そこで自分には何ができるかと考えた時、新しい研究や開発がなぜ事業につながっていかないのかという思いにかられ、研究者から企業人の思考に切り替わりました。」
まずは事業を定量的に分析するアカウンティングとファイナンスの勉強を始め、新規事業開発を推進するにあたり財務の知識が必要になると考え、自ら希望して生活・産業事業本部の経理部門へ異動したのです。
「経理に異動して感じたことは頭でっかちになってはいけないということ。工場や製造現場、営業の方たちと密に関わることで、企業活動というのはすべてが理屈通りではなく、地道かつ忍耐強く、根気のいる仕事によって成り立っていることを理解できました。」
ふたたび古巣に戻って新技術開発に従事した後、情報コミュニケーション事業本部で企画や技術と様々な業務経験を積んできた勝亦。
「多様な人と出会い、人脈形成ができたこと、視野も視点も大きく広がったことが今に活きていると思っています。」
簡便・迅速な検査を可能にしたラテラルフローアッセイ
勝亦が総合研究所でがんの診断に役立つ新技術開発に取り組んでいた2009年、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクトで高感度ながん検出手法の研究開発にも従事。当時、早期の技術確立の必要に迫られ、2011年ラテラルフローアッセイの開発に着手することになります。
そもそもラテラルフローアッセイとは何か。
「比較的身近なものですと、病院に行ってインフルエンザや新型コロナなどの検査をする時、採取した唾液や鼻の粘液などの体液等を使って簡単に陽性・陰性の測定ができる技術です。簡便性・迅速性、そして場所を選ばない点が最大のメリットです。」
この研究がきっかけとなり、2013年に細胞外小胞(エクソソーム等)をラテラルフローアッセイで検出する技術を開発。翌年には特許出願をしていますが、すぐに事業化へという流れにはならず止まってしまったといいます。新技術の事業化の難しさに直面した勝亦でしたが、特許出願から約9年経った2023年、止まっていた時間が動き出します。
「大日本塗料株式会社から研究用試薬キットの開発に際し、特許を使用したいという申し入れをいただき、日の目を見る日がやってきたんです。特許ライセンス契約を結び、世界初のキット『細胞外小胞用イムノクロマトキット』が誕生しました。ようやく研究開発したものが世に出て、新たな事業展開につながりました。」
簡便・迅速な検査を可能にするラテラルフローアッセイの活用は医療分野にとどまらないといいます。
「ラテラルフローアッセイは、感染症の検査キットや妊娠検査薬などの医療分野だけではなく、食物中のアレルゲンや食中毒の原因の病原性大腸菌の検出、植物の病害、家畜の病気(口蹄疫)など農業や畜産の分野、変わり種では尿中の薬物の検出にも活用されています。早期発見やセルフチェックで未病・病気の予防、食の安全にも寄与できると思っています。」
新たな付加価値を創り出すDX化に挑戦
ラテラルフローアッセイのパイオニア勝亦は、次なるミッションに挑みます。TOPPANが長年の印刷事業で培ってきたCMS(カラーマネジメントシステム)技術の活用です。
「簡便・迅速な検査が可能で、測定場所を選ばず使えるのがラテラルフローアッセイの一番のメリットですが、基本的に検査結果は目視で判定する必要があり、見る環境や人によって見え方が異なります。こうした問題の解決に画像の色を補正・変換するCMS技術が活かせると考えました。カメラやスマートフォンで撮影したラテラルフローアッセイのキットを、CMS技術で撮影環境による影響(影や明暗、色調など)に依存しない正しい画像に変換して、数値化・定量化することでどこでも誰でも正しい検査結果が得られます。」
CMS技術によるラテラルフローアッセイの定量化技術は、情報のデジタル化、業務プロセスやサービスの最適化につながるといいます。
「例えば、検査結果の情報共有ができれば遠隔地の医師によるオンライン診療であったり、製品の品質検査などの製造管理工程の効率化にもつながり、医療DX、製造DX、さらに農業DXなど、さまざまな分野のDXに貢献できると考えています。」
今まさにDX化に向けて、ラテラルフローアッセイの定量化技術の事業化を進めているといいます。
「ラテラルフローアッセイについて、TOPPANは多くのアセットを保有しています。細胞外小胞を検出する特許などの社会実装に向けた研究開発力、トッパンメディカルファクトリーによる製造受託、パッケージ製造、物流、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などのサービス、これらの積み上げてきたものにより市場との接点の数が多く、まさにTOPPANだからできるトータルソリューションで社会に貢献していきたいと思っています。」
情熱と覚悟と責任を持って取り組むジェンダード・イノベーション
勝亦はCMS技術部のチームリーダーとしてCMSの事業推進に取り組むと同時に、ラテラルフローアッセイの知見や技術を応用して、女性医療分野のイノベーション技術開発を行っています。
「卵巣がんは、初期には症状がほとんどなく、気づいたときには重症化していることが多く『サイレント・キラー』とも呼ばれています。女性の健康課題解決にラテラルフローアッセイの技術が使えないかと考えていた時に出会ったのが、名古屋大学医学部の産婦人科医で、細胞外小胞研究の権威である横井 暁先生です。断られるのを覚悟で直談判に行ったところ、一緒に共同開発できる機会をいただけました。」
女性医療、女性の健康課題に挑戦するにあたり、女性社員との連携を取りながら、あらゆる職種で同じ方向を向いてくれる人と一緒に課題解決に取り組んでいると話す勝亦。それができるのは、これまで歩んできた道のりで形成した人脈があってのこと。
「私が仕事に取り組むうえで大切にしていることは、情熱と覚悟と責任です。TOPPANは、多彩な人財、研究開発で積み重ねてきた知見が豊富です。情熱を見せればこの指とまれで多くの社会感度の高い人財が手伝ってくれます。覚悟があれば本気度が伝わり、経営層含め職位に関係なくあらゆる可能性・挑戦の話を聞いてくれます。責任が伴うと自分を律して頑張ることができます。この3つを誰に対しても見せ続けていきたいです。」
社内社外の枠も、部署や男性・女性の垣根も越えて、事業推進と技術開発の二刀流で新たな挑戦を続ける勝亦が目指すところとは。
「自社内の技術やノウハウに閉じこもるのではなく、外部の知識やネットワークなどを積極的に活用するオープンイノベーション、そして性差分析によるイノベーション創出=ジェンダード・イノベーションという広い視点で社会の課題解決に臨みたい。また、ラテラルフローアッセイの専門家として、どこでも、だれでも病気の検査ができて、早期発見に貢献できる『世界初』の技術も目指したいと思っています。そのための新しい技術の種は常に蒔いておきたいですね。」
世界初の簡易検査キットの技術を生み出したように、この先勝亦がどんな『初』の技術で私たちに新しい世界を見せてくれるのか期待は膨らむばかりです。
※2026年2月公開。所属等は取材当時のものです。