中林貴光:1998年に群馬大学工学研究科修士課程を終了後、インフラ系の会社に入社。入社後は研究所に配属され、素材の基礎技術開発やRFID事業を立ち上げに従事。2003年凸版印刷に転籍後もRFIDデバイスの開発、中国製造サプライチェーン・市場開拓など一貫してRFID事業の拡大推進に従事。「AIPIA ASIA SUMMIT」などのイベントやメディア寄稿・出演実績多数。

機械と共に生きてきた人間が選んだ、RFIDという技術

「実家が工場だったこともあって、私は機械と共に育ったんです。」(中林、以下同様)

そう自らの思い出を語るのは、IoTデバイス開発部部長の中林貴光です。

実家は工場。少年時代はプラモデルやラジコンブーム真っ盛り。学生時代の関心は自動車。進学したのは機械工学のある工学研究科。専攻は制御工学。中林が語るとおり、彼は機械と共に生きてきました。

そんな中林が今、TOPPANグループで取り組むのは『RFID』です。

RFIDとは、無線を使ったモノへのID付与技術のことで、自動認識技術の一種です。我々の身の回りでは例えば、IC乗車券やETC、アパレルのタグとして使われています。最近では犬や猫といったペットを識別するためのマイクロチップを導入することが増えていますが、そこに使われているのもRFID。スマートフォン決済として使われているNFCもRFIDの一種です。ライフスタイル周辺だけでなく、製造工程や資産管理といった企業用途でもRFIDの利用が進んでいます。

「現在、国内外のあらゆる分野でRFIDの利用が進んでいます。TOPPANグループでは例えばグローバルな商材である高級ワイン真贋判定のためのRFIDを開発しましたが、これも世界中で使われているものです。」

他にも、化粧水残量の自動検知ができれば美容分野で、患者さんの様子を自動検知できれば医薬や医療分野で、RFIDは世界に貢献できるかもしれません。「現場の方々が漠然と感じている不満をRFIDで解決していきたい」と、中林は意気込みます。

RFIDは面白い。だから取り組んでいる。

実は中林は元々、他社でRFIDを研究していました。後にその会社はTOPPANグループにM&Aされましたが、中林は現在でもRFIDの研究開発に携わっています。RFIDに関わることになったきっかけ。それは前の会社での新規事業でした。

「前の会社で『次世代に繋がる新規事業開発』に取り組むことになったんです。RFIDはその会社の既存事業とシナジーがあったし、将来的に有望な技術ということで、興味を抱きました。RFIDとはなにか、どういう技術や規格があって、どんな可能性があるのかという調査から始めて……本当にゼロからのスタートでした。」

ここから、中林とRFIDの長い付き合いが始まります。RFIDを研究して早25年。どうして中林は、ずっとRFIDに携わり続けているのでしょうか。

「誤解を恐れず言えば、私はRFIDの研究を仕事だと思っていません。面白いからやっているだけなんです。こう言うと周りの仲間に怒られちゃうのですが(笑)。

でも、RFIDは自分の身の回りも影響を与えうる技術だし、日本を飛び出して世界でも活躍できる技術。研究者として、こんなに楽しいことは他にないんですよ。」

研究開発風景
RFIDタグのサンプル

プロダクトアウトではいけない。最大限の効果を生むために

中林の語る通り、RFIDはあらゆる分野での利用が見込まれている技術です。ところでTOPPANグループには、印刷をはじめとして多岐に渡る事業があります。そう、多様な事業領域で活躍するTOPPANグループだからこそ、RFIDの可能性を最大限発揮できるのです。

とはいえ、その可能性を実現させるためには、RFIDそのものに加えて、RFIDと組み合わせる対象の知識も必要だと、中林は語ります。

「TOPPANグループは幅広いフィールドで活躍しているので、ありがたいことにあちこちから『こうやってRFIDを使えないか』という相談をいただきます。

でも、RFIDの技術だけあっても、私たちの仕事は上手くいきません。RFIDが管理する対象をしっかり理解しないと、真に役立つことは適わないのです。

例えばワインだったら、ワインはどのように管理されるのか、どんなシチュエーションでどのように扱われるのか、その上でどうしたらRFIDがワイン管理に、そして社会に貢献できるのかを考えなければならないんです。」

かくして中林は、日々RFIDが管理する対象についても学びを深めています。しかし、当然ながら学ぶのは中林の得意分野ばかりというわけではありません。

例えば、建設物の管理にRFIDを適用する案件では、RFIDをコンクリートに埋め込む必要がありましたが、コンクリートは強アルカリ性を示す材料。そのためアルカリ性に耐えうる仕様が必要です。この課題を解決するため中林は『大の苦手だった』という化学にも一から取り組みます。

「機械が好きなので物理は昔から得意だったのですが、化学はからっきしで。でも、コンクリートとRFIDを組み合わせるというお題をもらって、必要性に迫られてやると、化学も面白かったんです。

勉強することの楽しさはもちろんありますが、何より、お客さまの対象物をちゃんと勉強しないと、中途半端な仕事しかできなくなってしまう。ありとあらゆる分野を勉強して、そこにRFIDを組み合わせる。それが社会の、人のためになる。この仕事は本当に面白いですよ。」

RFID技術を活用したワインの真贋判定イメージ(https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2018/11/newsrelease181116_1.html)

TOPPANグループの技術力で攻略する主戦場はグローバル市場

これまでTOPPANグループのRFID事業は、日本市場を中心に展開してきました。しかしRFIDは国内だけでなく、世界でも可能性をもつ技術。これから我々は、海外の市場にも挑戦していかなくてはなりません。

実は中林は、10年近くも上海に駐在し、RFIDと並行して中国のサプライチェーン構築や営業などのビジネスにも携わってきました。この経験を糧に、中林はTOPPANグループのRFIDをグローバルに広げるべく奮闘しています。

「TOPPANグループの技術力は、世界的にみても絶対に負けていません。だから実際、フランスのワインなどの仕事も受注できているんだと思います。しかも我々はそこに、セキュリティなど他の技術も組み合わせられる。これは大きな強みです。」

フィジカルとサイバー世界の融合へ、セキュリティを『モノ』へ拡張する

TOPPANグループでは、クレジットカードやキャッシュカード、マイナンバーカード、パスポートなど、数々のICカードを手掛けています。IDはセキュリティが最重要課題で、TOPPANグループはこのセキュリティにおいて、高い評価を得てきました。これらICカードというIDはすべて、「『人』のためのID」と言えます。

中林が今取り組んでいるのは、この『人』に使われてきたセキュリティの、『モノ』への拡張です。モノに与えたIDを、安全に扱えるようにする。これが中林の今の使命です。

「RFIDは道具でしかありません。お客さまの目的はRFIDを使うことではなく、それによって物にIDを付与し、何かしらの管理をすることです。なので我々としては、お客さまが使いやすく、かつ安全なRFIDを提供しなければなりません。そのためにセキュリティは絶対に必要な要件です。なのでセキュリティに強いということは、世界で戦う上でも絶対的な武器になるんです。これまでの知見を活かし、モノのためのセキュリティを高めることで、RFIDをさらに発展させていきたいですね。」

国が『Society 5.0』『スマートシティ』『デジタル田園都市』といった構想を掲げるなど、現代においてはフィジカルな世界とサイバーの世界を融合させ、より豊かで人間中心の社会を作り出すことが求められています。そのためには、現実世界のモノを管理するRFIDは、必須の技術となるでしょう。中林率いるRFIDの開発者たちは、こういった新しい社会への貢献も目指しています。

RFIDを一歩先へ。機械と共に生きてきた中林は、さらに歩みを進めます。



※2023年10月公開。所属等は取材当時のものです。

次世代に持続的な社会を残す。パッケージから解決する、地球規模の環境課題