中里康二手のひらから街とつながる
「デジタル窓口」をつくる
中里康二:2020年法政大学デザイン工学部システムデザイン学科を卒業後、凸版印刷(当時)へ入社。DXビジネス推進本部スマートシティ推進部に配属され、自治体ポータルサービス『クラシラセル®』の開発に関わる。2023年には、つくば市役所科学技術戦略課へ派遣。
つくばの街で進む最先端プロジェクト
茨城県つくば市。かつては科学博覧会も行われ、今でも多くの技術系企業が集う、まさに『日本のシリコンバレー』。そのつくば市で、スマートシティ化の取り組みの一つとして、市民への情報提供を行うスマートフォンアプリ『つくスマ(つくばスマートシティアプリ)』の運用が2022年から始まりました。この企画・開発に携わっているのが、TOPPANデジタル株式会社 DXビジネス推進本部 スマートシティ推進部の中里康二です。
「もともと、ゼロからモノを作ることが好きでした。子どもの頃は、家の中にあるおもちゃを分解して自分で作り直したりして。漠然とですが、将来は『モノを作り、世に送り出す仕事がしたい』と思っていたこともあり、大学はデザイン系の学部に進みました。」(中里、以下同様)
そんな中里が就職先として選んだのは、印刷会社の枠を超えて事業領域を広げつつあった凸版印刷(当時)。入社後、スマートシティ推進部に配属され、『つくスマ』のベースとなる自治体ポータルサービス『クラシラセル®』の開発チームに加わりました。その後、つくば市科学技術戦略課に派遣され、『つくスマ』の運用・改善に奔走しました。
誰でも使える、この街の「デジタル窓口」に
この『つくスマ』とは、どのようなアプリなのでしょうか。開発に携わった中里は、こう説明します。
「『つくスマ』は、毎日の生活に役立つ色々な情報やサービスへわかりやすく誘導する『デジタル窓口』なんです。市役所からのお知らせのほか、マップで公園や避難所の場所を確認したり、図書館カードやバスの運賃割引証としても使えるんです。」
社会の発展とともに、人々が快適に暮らすための情報は増え続けています。それらの情報を手に入れるためには、情報を提供するWebサイトにアクセスしたり、アプリをダウンロードしたりと、非常に面倒です。役に立つ情報が増え便利になった一方で、本当に必要な情報にたどり着くことが難しい状況が生じています。
様々な情報やサービスへの入り口を整理し、簡単に利用できるアプリが『つくスマ』です。現在、運用開始から2年が過ぎ、その便利さが市民に浸透しつつあります。
『つくスマ』開発の際、中里が特に意識しているのは、『日常生活における便利を増やすこと』。子どもから高齢者まであらゆる人に、生活の中で『アプリを使うと便利だ』と感じる場面を増やしていきたいと考えています。
「図書館カードのデジタル化に関しては、つくば市の図書館職員の方とも議論を交わしながらなるべく市民の方に便利だと感じてもらうことを念頭に開発を進めました。機能リリース後、実際に市民の方が図書館で利用されているシーンを目にしたり、図書館カードを登録したいとお問い合わせをいただく度に、やりがいや達成感を感じています。」
今後、さらに先進的な取り組みを進めるうえでも「市民にどんな便益を与えることができるのか」は重要な指標となるでしょう。
様々なプレイヤーをまとめる役割
スマートシティの取り組みには、数多くのプレイヤーが登場します。例えば交通関係なら地域のバス会社やタクシー会社はもちろん、警察庁や国土交通省が関わってくることもあります。医療分野なら病院や薬局のほかに、厚生労働省などが関わることも。また、取り組みの内容によっては、大学の研究室が参画するケースもあります。
自治体ポータルサービスを推進するうえでは、これらプレイヤーの調整役としてのはたらきも求められます。
「様々な分野の方と意見を交わし、調整をしながらサービスをまとめ上げていくのは、大変だけれど、やりがいを感じる。」と話す中里。
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 スマートシティスクールを受講し、新たな学びもあったようです。
「東京大学スマートシティスクールでは、様々な組織・業種の方が受講していました。幅広い分野の方々と、『スマートシティ』というテーマで意見を交わすことで、今後の『クラシラセル®』の拡張に活かせる発見が数多くありました。」
『クラシラセル®』が少しずつ進化していく中で、中里自身もまた、仕事を通じて新たな成長を遂げています。
街とともに、『クラシラセル®』も成長する
スマートシティの取り組みは、本来30年・40年といった長期的な時間軸で考えるものです。しかし、30年も経てば社会の状況も、人々の暮らしも大きく変わり、同時に技術も進歩していきます。これまで不可能だったことが容易に実現できているかもしれません。「だからこそ、スマートシティの取り組みにはゴールがない。」と中里は話します。
「『クラシラセル®』についても、これが完成形だとは考えていません。これからも、社会や地域の変化に合わせて、柔軟に形を変えていく予定です。」
いま中里が注目しているのは『防災』の分野です。既に防災関連のアプリは多く存在しますが、何もない時にはなかなか使用しないもの。しかしそれでは、いざという時に使えません。
「防災関連の情報こそ『普段づかい』しているアプリから提供されることが望ましい。」と考えているのです。日常的な情報の窓口である『クラシラセル®』はまさにうってつけ。近い将来、防災関連サービスとの連携が実現されるかもしれません。
日常から万が一の事態まで、あらゆるシーンで手のひらから市民を支える、まさに『デジタル窓口』。それが、中里の目指す『クラシラセル®』の姿です。
「スマートフォンが普及して、今では電話やメール機能のほか、目覚ましのアラームをかけたり、電車に乗ったり、コンビニでの支払いをしたりと、スマートフォン一つでなんでもできるようになりました。すさまじい勢いで、テクノロジーは進化しているんです。少子高齢化や地方の過疎化など、将来に対する課題はたくさんありますが、技術の進化を信じ、未来を前向きに捉えるようにしています。」
「モノを作り、世に出す仕事がしたい。」
中里が学生時代から抱いていた想いは、いまも変わっていません。人々の暮らしをより便利に、快適にするための、中里の『モノつくり』は、これからも続いていきます。
※2024年4月公開。所属等は取材当時のものです。